そんなに急いでどこへ行く

面白い話ができたらと思っています。

一昨日、犬が死んだ

一昨日の夜、犬が死んだ。

我が家の全てを見てきた犬だ。

小さい白い犬は、15年の生涯を終えた。

 

2004年、我が家に小さくてふわふわな白い犬が来た。ポメラニアンのメスだ。

クリスマスに来たので名前は仏語の「ノエル」になった。

我が家では「ノンちゃん」と呼ぶようになった。

 

その日のことはよく覚えていない。

母が言うには、私は当時小学校低学年ながらかなり病んでいたのだという。

ノエルを膝に乗せた私は、「やっぱり生きていきたいと思う」と言ったのだという。

 

ノエルは特に、父によく懐いた。母もリスペクトしていた。

幼稚園に通っていた弟は下、私は「対等」か少し上に見ていたと思う。

 

家族は北海道に渡った。

 

冬に外へ連れ出すと、ふわふわの白い犬は白い大地をぴょんぴょんと駆け回った。

部屋の中でも駆け回った。

家族が「ノン、ストップ」と注意すると、言われた通り「ノンストップ」で走り回った。

 

父が死んだ。

 

その直前、父はノエルの散歩に出かけたのだという。

父が最後に何を語ったのかは、ノエルしか知らない。

ノエルが、父が帰ってこないことをどう思っていたのか、知る由もない。

 

父を失った家族は、東京へと戻った。

ノエルは、頻繁に咳をするようになった。

心臓が悪かったそうだ。

 

私は大学に入り、実家を離れた。

帰るたびに、「おかえり」という顔をしてきた。

我が家の中心にはいつもノエルがいた。

 

心臓の病気が悪化した。

10年以上生きて、老衰もあったようだ。

ある時、突然倒れた。

 

母はそれから「無理矢理に延命させるよりも楽に死ねるほうが幸せだろう」という方針を取った。

半年前のことだ。

病気は悪化するばかりだが、ノエルは部屋中をぴょこぴょこと歩き回っていた。

 

母から「ノンちゃんがそろそろかも」という連絡があった。

先週の金曜日のことだ。

私は東京へと向かった。

 

寝たきりのノエルはほとんど動けない状態で私を待っていた。

「ノンちゃん」と声をかけると、目が少し開いた。

 

母は昨晩は徹夜で面倒を見ていたのだという。もう一晩の徹夜を覚悟して、仮眠していた。

弟は、風呂に入ると言って消えた。

私は、一人でノエルを見ていた。

スマホを見ていたとき、「コッ」という音がした。

口が開いていた。息はしていなかった。

 

最後まで我が家の真ん中にいた。

その旅立ちの瞬間は、誰にも見せなかった。

けれど、最後に私が帰ってくるのを待っていてくれたのは確かだ。

 

ボロボロになった肉体を離れて楽になっているだろう。

今頃、大好きな父と一緒に笑っているだろう。

 

15年間、お疲れ様でした。

そして笑顔をありがとう。