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10月23日対話集会で見えた学長のスタンス

2019年10月23日、水曜日。

14時から15時30分にかけて、静岡大学の再編・統合に関して学長と学生との「対話集会」が開催された。学部を問わずさまざまな立場・状況の学生が集まり、学長と直接議論することのできる機会となった。

石井学長は、これまでも真偽不明で不規則な発言を繰り返しているほか、独特の大学観を語るなどして学生や教職員をはじめ多くの関係者を困惑させてきた。今回もその「石井節」を炸裂させ、学生たちを驚かせた。

今回は、学長と学生の間で交わされた議論の一部を取り上げ、学長の現段階の考えなどについて見ていき、個人的な感想を交えつつ紹介していきたいと思う。

 

この日、特に議論となったのは以下のテーマである。今回は学長の考え方に着目していく。

1.「ゼロベース」発言の意図と学長の考え

2.再編後のサークル・部活はどうなる?

3.再編統合の静岡市へのメリット、地域に果たすべき役割とは

4.静岡と浜松

6.学長の「アカデミズム」観

7.学生は「当事者」か

 

1 「ゼロベース」発言の意図と学長の考え*1

Q 先日の市議会で「ゼロベース」という言葉が出たが、この「ゼロベース」とはどういう意味なのか

 「ゼロベース」というのは、大学の提案に縛られないでいろいろ意見を聞くという意味だ。大学の案が固まり方向性が決まっているが、協議会をやる以上はいろいろな案を聞いていく

Q この「ゼロベース」とは、静岡市と一緒に新しい案を作るという意味か

 静岡市の案を聞いてみないとわからない。静岡市の案にいいアイデアがあれば取り入れるが、それが無いようであれば大学の案で進めていく。それは話し合いで決めていくものだ。

 Q そもそも大学の方針がある一定以上固まっているのに、「ゼロベースでの議論」はできない。本当の意味の「ゼロベース」にはならないのでは。今は立ち止まって考えるべきではないか。

 時間をかけて考えることは「正しい場合」もある。まだ詰まっていない議論について考えるときは確かによいかもしれない。今の大学の案で変えていくべき点はないと考えている。これ以上時間をかけて何を変えていくべきかはわからない。

この発言により、学長の言うところの「ゼロベース」が、我々の考えている「ゼロベース」という意味とは大きく乖離していることが明らかとなった。すなわち、これからも議論は「結論ありき」であることに変わりはなく、自分を納得させる「代案」が出ない限りは現行案で進めていくぞという意思の表明だったのだ。

もっとも、現行案というのは、学長や推進派にとって「良い」案であるだけにすぎず学内の合意形成がうまくいっていない時点で「詰まっていない議論」、つまり学長の言うところの「時間をかけて考えるべき案件」であることは自明なのだが。

 

2.再編後のサークル・部活はどうなる?

 Q 部活等のチーム再編について。再編前のチームのまま大会などに出場できないことなどは問題であり、考えていくべき点だと思うが、学長はどう考えているのか。

 例えば吹奏楽部は再編後も東西合同で部活はできるが、その際コンテストでは大学の部ではなく、レベルの高い一般の部での出場になってしまう。ご迷惑はおかけするが、部活を理由にして再編統合を考え直すということはない。解決しないと先に進めないということはない。2000年に東西キャンパスが完全に4年体制になったときの影響のほうが強かった。考慮すべき要因ではあるが、そのために考え直すということはない。

静岡と浜松の両キャンパスにまたがる吹奏楽団は強豪として知られている。昨年もコンクールは県大会と東海大会で金賞、全国大会では銀賞という成績を収めている。*2もし静岡と浜松が別々になれば、この水準の維持が困難になることも考えられるし、演奏自体にも支障が出るのではないか。

サークルや部活は静岡大学の「文化」を構成している重要な要素である。それにも関わらず、「ご迷惑をおかけする」の一言で済ませてしまう点は不誠実と言わざるを得ない。

学長や推進派にとっては小さなことかもしれないが、静岡大学という大きなパズルは一つのピースを失うだけで成り立たなくなる。そしてそれは、ゆくゆくは大学それ自体の「競争力」にも響いてくるのではないか。

 

3.再編統合の静岡市へのメリット、地域に果たすべき役割とは

Q この再編統合による静岡市へのメリットは何か、地域に果たす責任などはどうなっているのか

来年の四月から「未来社会デザイン研究教育機構」を作る計画がある。これまで静岡キャンパスの学部はこれまであまり地域社会へのかかわりがなかった。再編を機に、静岡市の未来像を示していける大学に変えていくことができる。医療を取り込むことでよりよい提言ができるようになる。

Q 静岡市という小さな枠だけでなく県全体の地域を見ていくことが求められるなかで縮小することに意味はあるのか。縮小化していくことにメリットを感じない。

これまでの静岡キャンパスは、「地域社会への貢献は工学や情報学が担っているので、そちらにお任せする」というのが基本的なスタンスだったと思う。それゆえ地域創造学環ができたわけだが、各学部の大学教員のレベルでは新しい地域社会のあり方を提言できる人は(いないことはないが)多くはない。静岡キャンパスで独立して意思決定できることで責任を明確化でき、小回りが利く。この再編はむしろ「統合」の意味が強い

私が今回驚いた発言の一つであった。引用も太文字にしたが、要するに「現在の静岡キャンパスには(学長の目から見て)”地域の役に立つ”人間がいない」ということを明言したのであった。さらに、「工学と情報学の”地域貢献”とは具体的に何があるか」という趣旨の質問には、

工学と情報学は産業界と直結しており連携ができているが、静岡キャンパスを見ると、(農学部こそそうでないにせよ)全体的に卒業生の行く分野がばらけている。社会連携が十分にできていない

と話している。おそらく、浜松キャンパスから地元企業へ就職する学生が多いことや研究の面で直接企業とやり取りできることを言いたいのだろうが、そんなものは大学の持つ価値の一つでしかない。なにより、地元産業界との連携だけが唯一の「社会連携」や「地域貢献」の方法ではない。

 

4. 静岡と浜松

学長は再編統合のメリットのなかで、静岡と浜松の「考え方の違い」や「距離」を強調し、それらの要因ゆえに迅速な意思決定ができない(それゆえ再編すべきだ)と話しているが、それに対し学生からツッコミがあった。

Q 「静岡と浜松の考え方の違い」とは何か

浜松は「やらまいか」で静岡は「やめまいか」であることが多い。浜松のほうが新しいことや斬新なことをやろうという意思がある。

また、工学や情報学の分野では「納期」という概念があり、「コストと時間」が重要である。それに対して、理学や人文学は時間をかけて考えることが多く「時間に縛られるもの」ではない。

さらに、製造業中心の都市である浜松と県庁所在地の静岡とではカルチャーが異なる。学問の性質や都市の雰囲気の違いで議論に遅れが生じる。

Q 大学には「多様性」が必要では?お互いに違いを認め合い調整すべき

グローバル化のなかで「国民国家」があるのと同様に、同じカルチャ―の人間がまとまって意思決定したほうが効率がよい。浜松のことは浜松で、静岡のことは静岡で決めてそれを一つの法人に上げる、という形をとることは「多様性の尊重」と矛盾しない。

彼が盛んに言っているのは、こうした「地域の違い」だとか「距離」といったものである。たしかに、「意思決定が遅れる」要因にはなりうるかもしれない。だが、そんなものはインターネットの普及した現代社会では容易に克服できることだし、信州大学のように各地にキャンパスが点々としながらも一つの大学として運営ができている国立大学はある。

そして何より「迅速な意思決定」ばかり強調しているけれど、きちんと詰められていない案件を、同じ地域の同じような性格の人たちが「迅速」に決定したところで、成果として出来上がったものの質はそれなりのものになってしまうのではないだろうか。

すなわち、企業での製品の企画ならまだしも、大学という高等教育・研究機関の運営についての決定において、スピードばかりを重視すれば、結果として”不良品”みたいな教育や研究を大量生産することになるのではないだろうか。

スピードばかり強調しているが、「質」について言及がないあたりに浅はかさを感じずにはいられない。

 

5.学長の「アカデミズム」観

Q 社会的ニーズに縛られるようでは「学問の質」の低下の恐れがあるのでは。その点で「衰退」の危惧があるのではないか

 社会との繋がりについて意識していないアカデミズムがあるが、それに偏りすぎるのは問題。大学の中に縛られるのではなくアカデミックな研究から離れて「新しい社会をどう構想していくか」を考えていくべき。

アカデミックという言葉には「良い意味」と「悪い意味」がある。短期的なニーズに縛られないという点ではアカデミックであり続ける必要があるが、現状のアカデミックはあまりにも社会的ニーズを軽視しすぎている傾向がある。その点において社会的ニーズとの結びつきは、アカデミックの「衰退」をもたらすではなく新しい力を与えていくことになる。

ある意味でこの再編統合問題の「本質」はここにあると私は感じている。というのも、この再編問題が進むなかで推進派たちの根本を貫いている思想こそが、まさにこの「社会的ニーズ」という概念だからだ。

学問の自由が認められている日本においては、研究活動の自由は誰にでも平等に開かれている。そしてその研究活動は各々の関心に基づいて行われるものであるし、そこに「良い」も「悪い」も存在していないからである。

むろん、社会の状況などの事情で「求められる分野」とそうでない分野が出てくるのは当然だろう。だが、「社会に求められる分野」であっても時の社会がたまたまその分野を求めているだけであって、次の時代も続けて欲し続けるとは限らない。その一方で、いまは「求められていない分野」であっても、いずれ誰か必要だと感じる人が拾い上げて社会がそれを求めることになるかもしれない。そして、その日が来ても来なくても、基礎研究は絶えず行われているのだ。

役に立つか否かというベクトルだけで研究や教育の良し悪しを判断されたら、そもそもアカデミズム、いや、大学というものの存在意義自体も揺らいでしまうのではないだろうか。

工学は確かに役に立つ。工学と医学とのコラボレーションにより、これまでよりも多くの命を救えるかもしれない。

だが、それだけが「研究の価値」なのだろうか。今日や明日役に立つことだけが「社会的ニーズ」で、そんな「社会的ニーズ」を満たすことのできない学問や研究は駆逐されるべきなのだろうか。

そんな「思想」に変わりないことを感じて暗澹たる気持ちになってしまった。

 

6.学生は「当事者」か

Q この問題について学長はコミュニケーションをとっている、としているが学生に対してしていないのはなぜか。

この件について、学生に対して「説明不足」だとは思っていない。ホームページにあることが言えることのすべてである。そんなことを聞いても退屈だと思う人がほとんどではないか。

学部を超えた対話集会に学生を集めるのは難しいと考えている。4月や5月の時点で説明会を開いたところで人数は集まらなかっただろうし、もしやっていても、ただの「アリバイ作り」と言われるだけだ。

なるほど、「君たちどうせ来ないじゃないか」ということだろうか。そんなことを言うなら、むしろ開催すればよかったのではないか。

少なくとも3月の段階でこの問題に注目していた私なら行っただろう。そして、たとえ参加者が私一人だけだったとしても、学生に説明会の存在を周知したのち、きちんと説明する責任はあったのではないだろうか。

 

だが、学長の認識は「根本」が違うのである。以下の通りである。

 Q 学生としては静岡大学が「母校」である。大学の関係者の一人として認識し、尊重してほしい。学生についてどう考えているのか。

経営と教育は分離して考えるべきものである。学生諸君は「教育」についてどんどん意見してほしいと思う。だが、「経営」に関しては大学の執行部が判断するものであり、学生が直接関与する性質のものではない。

このように学生の意見を聞く集まりがまた開催されるならばぜひ参加したい。

学長にとって学生は、この問題の「当事者」ではないのである。すなわち、大学の経営に対して学生が文句を言う資格はない、ということだ。

確かに、民間企業を例に「一般の従業員は経営に口出しできない」という反論も十分想定できる。だが、民間企業であれば株主総会が存在し、それにより経営陣の「暴走」を食い止めることが可能である。

当然ながら、国立大学には株主総会が存在しない。そのため経営に責任が伴っていないのは明らかである。実際問題、すでに「暴走」している。

そして何より、経営の質は教育の質に影響する問題ではないだろうか。頓珍漢な経営をされれば頓珍漢な教育になるだろうし、その被害者となるのはほかでもない我々学生である。授業料を収め、静岡大学を構成するパズルのピースとして活動する学生を軽視する姿勢に心底呆れてしまった。

 

さて、ここまでが23日の主な議論である。これを見てどう感じただろうか。

時間が足りないと思えるほど活発に議論がなされ、皆で静岡大学の今後について考えるよい機会であったと感じる。私にとっては、学長と学生の間の「壁」を改めて感じる機会となった。

お時間をつくってくださった石井学長はもちろん、学長や当局サイドと連絡を取り合いこの会の企画や運営をしてくださった農学部の西川さん、そして参加された皆さん、ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。

より議論は深めていく必要があると思う。これは、大学だけの問題にとどまらず地域社会全体を巻き込んだ大きな課題として考えていくべき内容だと私は感じる。

*1:昨月30日の静岡市議会において、田辺市長が「静大の石井学長から”静岡大学将来構想協議会”設置や、ゼロベースでの議論をお願いしたい」との申し出があったことを明らかにした。詳しくは、http://shizudai-saihen.lsv.jp/press/newspaper/

*2:https://shizuoka-windorchestra.com/schedule/%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%82%af%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%83%87%e3%83%bc%e3%82%bf/